泣いた赤白黒鬼:アノア学園マジック科

 

『マジック対戦相手募集』

 

「なぜだ!なぜ誰もマルドゥの門を叩かない」

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兜砕きのズルゴは怒っていました。
たくさんの人とマジックをしたいのに、対戦につきあってくれるのは部下ばかり。
しばし接待と思わせるプレイングをされることがさらにズルゴをイライラさせるのです。
入口に『マジック対戦相手募集』という立て札を大きくとりつけたのはいいものの、そもそも今は紛争中。
他の氏族はマルドゥの拠点に近づきすらしないので立て札を見る者はいませんでした。
ズルゴは日に日に荒れていきました。
ついには部下たちも彼を敬遠する始末。
サルカン・ヴォルがズルゴの元を訪れたのはそんなときでした。
「おぉ!来てくれたのかサルカン」
「マルドゥのカンが何やらお冠と聞いてな。もっとマジックがしたいのか?」
「もちろんだ!サルカン、つきあってくれるか」
「俺でもいいが、デッキはマルドゥミッドレンジだぞ」

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ズルゴは落胆しました。
ここはマルドゥ。
使用デッキもみんな同じようなものだったのです。

「そう暗い顔をするな。今日はよりマジックができる場所へお前を連れて行くために来たんだ」
「え、それは……」
最後まで言い終わる前に、サルカンはズルゴの手を取ってプレインズウォークしたのでした。

 

 

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キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン

「初めまして。今日から新しくアノア学園高等部で構築を担当することになりましたChunです。
実はスタンダードを教えたことはないのですが、みなさんと一緒に成長していきたいと思いますのでよろしくお願いします」

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鳴り響く拍手。
畳み掛けるように浴びせられる質問の数々。
そんなよくある新任教師赴任イベントは突然終了しました。
廊下から凄まじい爆音が聞こえてきたからです。

「怖いわ。いったい何の音?」
「落ち着いて。先生が廊下の様子を見てきます」

ざわつく教室。
そしてChunが廊下へ出る前に、扉がガラガラと開かれました。

「ギャー!鬼だー!」
「ひぃ。お、落ち武者……」

 

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現れたのはさきほど地球にプレインズウォークした二人。
彼らが生徒に対して危害を加える気はないものの、教室はさながらパニック映画の一幕でした。
ズルゴもサルカンも、現代の学校には異様すぎたのです。

「待ってくれ!貴様ら、マジックプレイヤーなのだろう?一緒にプレイしたいだけなんだ……」
「お願い、見逃して……」
「BR法が成立したの?神様か王様のいうとおりなの?」

加速する恐怖の前にズルゴの声は届きません。

結局ここでもマジックはできないんだ……

悔しさからズルゴの目には涙が溜まっていきました。

「静かにしなさい!」

教室中に響く大きな声。
ズルゴは今にも泣きそうだったことも忘れ、声の主に顔を向けます。
騒いでいた生徒たちも同様でした。

「みなさん、ここはどこですか?そうです。アノア学院高等部、マジック科です。
彼がマジックをしたいというのなら、一緒にプレイするのが生徒の模範だと思いませんか?」
「その通りです、先生」

その時、教室の心が一つになりました。
いえ、もともと一つだった“マジックを楽しみたい心”をみんなが思い出したのです。

「さぁ、一緒に対戦しましょう。あなたのお名前は?」
「ズルゴという。先生、あなたの言葉に感動した」
「いえいえ、教師としてあるべきことをしたまでです」
「そうか。しかし先生、随分と汗びっしょりだが、やはり俺が怖いのか?」
「まさか、どうやらみなさんの熱い気持ちに当てられてしまったようです」
「ふむ、ではなぜ足が震えているのだ?」
「風邪でも引いたのかもしれませんね。ほら、それで汗をかいているのでしょう」

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「ならいいが。さて、俺は見ての通りの体格だから、机を動かさねばマジックができん」
「その心配はいりません。“出でよ!マジシャンズフィールド”」

 

 

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ズルゴ「ここは?」
Chun 「アノア学院の教師が呼び出すことのできる、存分にマジックを楽しむための空間です」
ズルゴ「なるほど、余計なものが一切ないからマジックに専念できるということか」
Chun 「そうでしょう!今までの小説文体だとなかなか解説に進めませんからね。
ただ構築の話だけ読みたい方もここに目を通せばいいというわけです」
ズルゴ「先生は何を言っているんだ?」
Chun 「お気になさらず、大人の事情です。
ではさっそく始めましょうか」
ズルゴ「その前に一ついいか?」
Chun 「はい、なんでしょう」
ズルゴ「実は、氏族のメンバーとしかマジックをしたことがなくて……」
Chun 「なるほど、戦い方やデッキ構築に不安がありますか?」
ズルゴ「あぁ、一度デッキを見てもらえないだろうか?」
Chun 「わかりました。ではデッキを貸してください」



Chun 「土地とクリーチャーしか入ってませんね」
ズルゴ「あぁ、マルドゥたるもの、殴り勝つことに意義がある!」
Chun 「お友だちも同じような構成で?」
ズルゴ「無論だ!この《兜砕きのズルゴ》で並み居る敵を粉砕してきた」

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Chun 「クリーチャー以外の呪文がない環境だとそうでしょうね……
しかしデッキ診断を依頼したということは、この現状を変える意思があるのですね」
ズルゴ「あぁ、俺も環境というものを勉強しているつもりだ。
しかしマルドゥにいるだけではその先がわからない」
Chun 「なるほど。ではデッキ構築の根幹について、簡単に説明しましょう」
~☆~ デッキ構築のいろはを知ろう ~☆~

 

ズルゴ「何か出てきたぞ!」
Chun 「これも大人の事情です。
さて、マジックザギャザリングの構築は60枚以上のメインボードと15枚以下のサイドボードで構成されます」
ズルゴ「構築というのはデッキの作り方、という意味でいいか?」
Chun 「はい。そうなんですが、ここではより厳密な意味を持っています。
フォーマットという言葉をご存じですか?」
ズルゴ「それくらいは知っている。スタンダードやモダンを指すのだろう」
Chun 「正解です。世界初のトレーディングカードであるマジックにはとても多い種類のカードが存在します。
それを全部、好きなように使用できたらどうですか?」
ズルゴ「覚えきれないし、カードを探すのが大変そうだ」
Chun 「最初はそうですね。なのでプレイヤーが一番楽しめるカードプールを選べるよう、いくつかのフォーマットがあります。
スタンダードなら最新2サイクル内のカードを使用するのでとっかかりやすいです。
パックやシングルカードの入手のしやすさもポイントですね。
もちろん、慣れればより多くのカードと戦略があるエターナルフォーマットも楽しいですよ。
みなさんもゆくゆくはレガシープレイヤーとなって私と対戦しましょう」

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ズルゴ「先生、宣伝になってるぞ」
Chun 「おっとすみません。脱線してしまいました。
では、ほとんど初心者のズルゴさんにはメインボードの話から入りましょう」
ズルゴ「お願いする」
Chun 「まず決定したいのはデッキカラ―とアーキタイプです」
ズルゴ「カラーはもちろんマルドゥ(赤白黒)だ!ところで、アーキタイプとは?」
Chun 「わかりやすくいえば“デッキ全体で何をしたいか”ですね」
ズルゴ「俺はマルドゥ軍団で攻め続けたい」
Chun 「はい、この場合は《ビートダウン》です。
このデッキは戦闘を中心とし、常に相手を後手に回らせることで強さを発揮します。
ビートダウン同士の戦いでは、ブロッククリーチャーの指定やライフ計算などが重要になってきます。
そこに面白みを感じられるのもいいですね」
・主なアーキタイプはこちら
《ビートダウン》
戦闘を主軸に置く攻めのデッキ。
コントロールにマウントを取られると負けに直結することが多いので、常にクリーチャーを出し続ける工夫が必要。
除去や土地を多めの構成にして攻め手を少なくすると勝ちきれない場面がでてしまうかも!?
小クリーチャーを並べて攻めたてる《ウィニー》、
火力とクリーチャーを織り交ぜる《スライ》などに細かく分類できる。

《コントロール》
相手の行動を阻害しつつ、少ないフィニッシャーで勝利へ繋げるデッキ。
何を除去・ハンデス・打ち消すかを判断する必要があるので、相手のデッキや戦い方を判断する力が必要。
フィニッシャーを序盤から引きすぎてもなかなか引けなくても負けにつながるので、ドローやトップ操作を大切に。
極限まで除去と打消しに特化させた《パーミッション》やそもそも何もさせない《ロック》などの亜種あり。

《クロックパーミッション》
攻めながら守る、という理想を体現したデッキ。
勝利への線が細く、規格外のデッキに対応しきれない弱点はあるが、プレイング次第で隙をなくせる。
良質のカードを求められがちで、スタンダードの環境次第ではそもそも組めないことも。

《コンボ》
特定のカードを組み合わせることで強力な効果を発揮するカードを主軸においたデッキ。
それらのカードを集め、プレイするためのカードと、コンボを守るためのカードを唱えるタイミングが重要。
キーカードを揃えるまでに倒されないように工夫しなければならない。
通常のデッキにコンボを組み込む構成、コンボに特化しドローやカウンターで固めた構成に分けられる。

《その他》
マジックは奥深いゲームです。有名なアーキタイプに縛られない、あなたのデッキを作るのも楽しみの一つ!
ズルゴ「ふむ、であれば同系に打ち勝つこと・コントロールに隙を作らせないこと・コンボが決まる前に倒すことが目標か」
Chun 「そうですね、全部いっぺんにこなすのは非常に難しいです。
メインボードは極力自分のしたいことを意識し、勝てない相手のためにサイドボードを用意するといいでしょう。
慣れてくればメインで環境を意識した構成にすればいいのですが、はじめのうちからできるものではありません」
ズルゴ「好きなことちうのであらば、全てクリーチャーでもよいのではないか?」
Chun 「場合によってはそれも成立するかもしれません。
ここで別のデッキ作成要因の話をしましょう。
あなたがどうしても使いたいカードはありますか?」
ズルゴ「決まっている、《兜砕きのズルゴ》だ!」

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Chun 「ではズルゴさんのしたいことは《兜砕きのズルゴ》で攻撃することですね?
そういう目的のカードがあれば、先ほどのアーキタイプを決めなくても、自然とデッキの形が決まってきます」
・デッキ作成の主な要因は?
1.アーキタイプ・色を決定し、目的にあったカードを集めていく
2.使いたいカードを決定し、それが最も活かせるようにカードを集めていく
3.好みのデッキレシピを参考にし、より自分に合うように調整していく
Chun 「さて、ここで土地とクリーチャーのみの構成であった場合を考えてみましょう。
自分が一切相手の妨害をしない場合、相手も好きなことができることになってしまいます。
そんな状態で3色5マナのカードを安定して出せることはなかなかないでしょう」
ズルゴ「ぐぬ……」
Chun 「好きなことをするための妥協、一緒にプレイする人がいる限りそれは必要となります。
たとえデッキを作ること一つをとってもね」
ズルゴ「なるほど、誰かと遊ぶゲームというものは自然と奥が深くなるのだな」
Chun 「その通りです」
ズルゴ「勉強になった、ではさっそく今の状態で妨害カードを入れてみよう」
Chun 「そうですね、一度やってみて下さい。
そのうえで、次は土地・クリーチャー・その他呪文のバランスを考えてみるとよいでしょう」
ズルゴ「あぁ先生。そのときはまた指導を頼む」

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デッキ構築に夢中だったズルゴは、ふとサルカンが教室にいないことに気づきます。

「先生、少しサルカンを探してくる」
「はい、お友だちを迎えに行ってあげてください」

こうしてマジックを楽しめるのもサルカンのおかげ。
ズルゴは感謝の念と、彼がいないことによる少しの不安を抱えて廊下へ飛び出しました。

廊下にはサルカンどころか、誰もいませんでした。
代わりに、一枚の置手紙がありました。

『落ち武者と呼ばれるなんて思ってもみませんでした。ショックなので先に帰ります』

ズルゴは短い置手紙を何度も読みました。
そして、声を上げて泣きました。

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あまりにも大きな声だったので、クラスの仲間が全員廊下へ飛び出すほどでした。
そう、プレインズウォークできない彼はサルカンの助け無しにタルキールへ帰ることができないのです。

chun

この記事の投稿者は  です

コメント

  1. ズルゴの信奉者 より:

    サルカンが某DQのキ○ファに見えた
    種返せよ!Fackin王子!!

    ずっとテキトに組んでたけどデッキ構築にも雛形・テンプレみたな考え方があったんですねぇ
    ルーキーなのでメインボード=やりたい事1、サイド=やりたい事2 っていう
    ゴミ束で挑んで毎度サンドバッグだったので参考になります。
    たまにぶん回ってガチ勢の戦績汚してドヤ顔する
    そんなアマちゃんは生きていけない、ヤるかヤられるか過酷な闘争MtGやだカッコイイ

    • u-1 u-1 より:

      ズルゴの信奉者様>
      まさか、そんなマニアックなキャラを出されるとは思いませんでした(笑)
      分からなくて、すぐググッたのは、内緒です。
      確かに、私も、やりたいことをと考えていたので、よくよく考えれば、フィニッシュの形を考えてデッキを組むのが正しいと言うか、早いのだなぁっと感心しました。
      今回は、ベテランプレイヤーのchun様に分かりやすい文章をご提供いただきましたので、是非ともまた、続きも発表できればと思います。
      ねっ、chun様?

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