きき用語ずきん:アノア学園マジック科

ここは発明博覧会。
建物は装飾され、動物までもが煌びやかな衣装を纏っています。
鳴り響くファンファーレのなか人々は笑いあい、
照りつける太陽に負けない熱気が会場に満ちていました。

展示物からも目が離せません。
マナを生み出すユニークな形をした車や不思議な宇宙儀。
機械巨人が五体揃い踏みするシーンには思わず言葉を失ってしまいます。

これらの発明品はとても多くあり、全てが展示されているわけではありません。
今日も博覧会の一角で新しい発明がお披露目されるかどうかの審査を受けているのです。

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「まったく、今日はもう私を驚かせる発明には巡り会えそうにありませんね」
発明の領事、パディームのもとには発明の審査や展示の後押しをして欲しいという依頼が絶えません。
しかし、あまりに多くを審査してきた彼女のお眼鏡に適う発明はそうそうありません。
この日も朝からいくつもの審査を行いましたが、博覧会に展示されうる品はついぞ現れませんでした。
審査の列が途絶えたころ、パディームは引き出しからデッキケースを取り出しました。
「ここまでにして、マジックリーグをしましょう。
今日も負けませんよ」
パディームが最近気に入っているもの、それはリチャード・ガーフィールドなるものの発明したトレーディングカードゲーム。
アノアデザインギラプール店店主に勧められたマジックリーグの虜となったのでした。
「いいですね。
パック追加した私は昨日までとは違いますよ」

公務が終わればそこはマジックをたしなむ場。
パディームの対戦には部下だけでなく、どこからか入りこんだハイエナまで試合を見ているようです。
しばらくして、部下の一人が扉を勢いよく開きました。
対戦に集中していたパディーム達はあまりの騒々しさにマジックリーグを中断します。
「何事ですか騒々しい。
私を驚かせなさいとは常々言っていますが、こんな方法を取れという意味ではありません」
「すみません領事。
しかし大変です!
たった今素晴らしい発明品が持ち込まれました」

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そう言って部下が取り出したものは一枚の頭巾。
「ほう。
それはいったい、どのような効果なのですか」
「はい、実はですね。
その頭巾を被ると動物の声が聞こえるようになるのです。
私もさきほど外のラクダで試したのですが、いまだ感動がさめやりません」
――動物の声が聞こえる!そんなことができるなんて!
パディームにこの日初めて発明に対する驚きが訪れました。
いえ、この日どころか先日エルフの女性ラシュミが持ち込んだ転送装置に次ぐ大発明です。
「なんということ!
この帽子があればペット産業に革命が起こるわ。
いいえ、それだけに留まりません。
グレムリンの思考研究を進め、偉大な発明品をより多く守ることができるでしょう。
さっそくここにいるハイエナで試してみましょう」

頭巾を被ったパディームは審査会場に紛れ込んだハイエナを見つめました。
それを取り囲み、まばたきも忘れて見つめる審査員たち。
「さぁハイエナくん、あなたの話で私を驚かせなさい」
そしてハイエナは鳴き声をあげました。

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「まったくよー、ばあさん、なってないぜ。
3/3立ってるのに2/2殴ってくるってことはコンバットトリック疑って当然でしょ!
何ハンドゼロで迷わずブロックしてんの?
相手悩んだ末そのままやられちゃったじゃん。
これ接待されてるんだよ!
さっきの試合もライフ20の本体に火力迷わずぶつけちゃだめでしょ?
盤面のリソース失ったらリーグ勝てないよ普通?
それにドロソだって……」

パディーム言葉を失いました。
そう、最近マジックリーグを始めたばかりのパディームにはハイエナの話はチンプンカンプンだったのです。
「領事、今なんと聞こえましたか」
「早く教えてください」
部下たちに詰め寄られるパディーム。
プライドもあり、ハイエナのいう略語がわからないとは言えません。
「この頭巾はまだ未完成です。
なにか話しているのはわかるのですが、まだ翻訳できていない部分が随所に見られます。
発明家のところに行ってくるので留守を頼みますよ」
一部審査員からの疑惑の眼差しから逃げるように、パディームは審査会場を後にしました。

「さーて、領事もいなくなったことだし、スタンダードやろうぜ」
「いいねえ、俺のスゥルタイ昂揚が火を噴くぜ」
「ところでこのハイエナ、どこから入り込んだんだ?」
「実は俺、デパラちゃん呼んでんだよ、こいつは彼女のペットさ」
「だったらマジックもうまいんだろうな。
案外領事、このハイエナにプレイングをこっぴどく言われて居たたまれなくなって出て行ったのかもな」
哀れなパディーム、頭巾などなくても部下には全てお見通しだったのです。
「お待たせ、楽しいパーティー会場はこちらかな?」
ここからデパラの赤白機体による無双が始まったのですが、それはまた別のお話。

一方その頃、パディーム領事は頭巾を片手に領事府を飛び出しました。
――発明家に略語を説明する機能をつけてもらわないと。
私はマジックでも頂点になりたいのよ。
「危ない!高速速警備車だ!」

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車(トランプル、速攻 )は急に止まれない。
パディームは車に轢かれ……
「あれ?さっきたしかにばあさんが飛び出したはずじゃあ」
「お前幻でも見てたんじゃないのか」
車の急停止に野次馬が集まりましたが、轢かれたはずのパディームの姿はどこにもありませんでした。

⇒ ⇒ ⇒

キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン

「はーいみなさん、こんにちは。
午後の授業はいつもとちょっと雰囲気は違いますが、リラックスしていきましょう。
保護者の皆さんも自然体ですよ。
あんまり派手な格好だと私もまぶしくてかなわないですからね……え?」
今日はアノア学園の授業参観日。
生徒たちも大なり小なり緊張しているのですが、保護者たちと教師Chunの緊張度合いとは比べ物になりません。
なぜなら、保護者たちにどう見ても人間でない者が混じっているからです。
大人たちよりさらに頭一つ抜けた長身。
授業参観どころかSF映画の撮影にでも用いるかのような派手な装飾。
極めつけは青い肌。
衣装どころか存在そのものがSFです。
「先生、どうしたんですか」
「もしかして母ちゃんのメイクの濃さに驚いたとか」
まだ何も知らない生徒たちは軽口を飛ばします。

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「いえいえ、先生が少し緊張してしまいました。すみません。
気を取り直して授業にはいりましょう。
その前に一つ。
授業参観中、絶対に後ろを振り返ってはなりませんよ」
Chunと保護者たちは目配せし、堅く頷きあいました。
「神話でこういう話よくあるよね」
「てことは振り返ったら黄泉の国?」
「みんな、絶対母ちゃんの顔を見るんじゃねぇぞ」
さぁ、授業参観の始まりです。

「つまりですね、《基本セット》を廃止したことによりスタンダードにおける色の役割というものは次元の特色により依存するようになりました。
初心者にとっては一見ハードルが上がったように感じますが、WotCはティーチングや《ウェルカム・デッキ》の配布で、入門を促しています。
緑の《巨大化》呪文や青のカウンターの役割をここで学ぶわけですね。
さて、ここで問題です。
《ウェルカムデッキ》には何枚のカードが入っているでしょうか?
いえ、黒板に書かなくても、むしろ立たなくてけっこうです。
そう、ゆっくり座って……
はい、正解、30枚です」
教室は緊張に包まれていました、主に教師Chunの。
生徒が万が一つにも振り返らないように進む授業参観。
しかし、このまま無事にチャイムまで持ちこたえることはありませんでした。

上がる細い腕。
技術者としての長い経験を刻んだ6本の骨ばった指。
発せられるしわがれた声。

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「すみません。
次元やカウンターなど、用語について疎くて。
説明いただけますか」
保護者席からの質問です。
それも、例のSF生物からの。
「保護者が質問?」
「誰かおばあちゃんに来てもらってるの?」
「なんだよ、さすがにうちの母ちゃんじゃねぇよ」
ざわめく生徒たち。
動揺する保護者たち。
――手を挙げるんなら教師が指名するまで待ってよぉぉぉぉ!!!
Chunは走りました。
飛びました。
そして勢いを殺さずに質問者に飛びかかりながら、
「“出でよ!マジシャンズフィールド”」
異空間へと消えていきました。

教師の消えた授業参観。
動揺する生徒たちをよそに、拍手を送ったり涙を流したりな保護者たち。
「え、どうすんの授業」
「Chun先生来年は担任降ろされるかも」
「母ちゃん何泣いてんだよ。
メイク崩れてるからまずはトイレ行こう、な」
「だからどうすんの授業……」
そのとき、生徒の不安を吹き飛ばすように大きく音を立てて扉が開かれました。
「授業は私が引き継ぎましょう」
u-1校長の登場です。

⇒ ⇒ ⇒

パディーム 「これは驚きました。
転送装置はつい先日この目で見ましたが、まさか私自身が転送されたのですね」
Chun  「もう、一体あなた私の授業計画を何だと思ってるんですか。
というかあなた何ですか。
さっき質問してましたが、次元を知らないってプレインズウォークしたんじゃないんですか」
パディーム 「プレインズウォーク?」
Chun  「知らないなら結構です。どうやってここへ?
《ポータル》は通りました?」
パディーム 「いえ、《高速警備車》に轢かれたと思ったらここに」
Chun  「車に轢かれたら普通はミニチュアサイズになって何度もドラマ化されるものでは?
いや、転送だからパワードスーツを着て宇宙人と戦わされて映画化……
っと、あまり話すとどこに耳があるかわかりませんから危険ですね。
とにかく帰り方を考えましょうか」
パディーム 「待ってください。
せめて、用語についての講義を最後までお願いします」
Chun  「あなた、マジック歴は?」
パディーム 「《カラデシュ》でのマジックリーグが初めてです」
Chun  「そういうことでしたら。
ここはアノア学園、マジックについて知りたい人すべてに門が開かれています」

~☆~ よく聞く略語を理解しよう ~☆~

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パディーム 「なんと、この文字はどのような発明なのでしょう」
Chun  「今はマジックの講義に集中してください」
パディーム 「そうでした。
ガイドブックは読んだのですが、出てこない用語でしょうか、多くあるのでしょう」
Chun  「たしかに。《マジック・ザ・ギャザリング》は歴史あるゲームです。
プレイヤー間で定着している単語、というのは数多くあります。
それこそクリーチャーの愛称だったりコンボの名称であったり、様々です。
まずはマジックリーグをするにあたって聞く可能性のあるものを挙げていきましょう」
パディーム 「ええ、先ほどの授業でも聞き覚えのない用語が多かったので、初心者向けに頼みますよ」
Chun  「わかりました。
長くカードをしているとつい言いなれた言葉で授業も進めてしまい……
最初に気を付けるポイントはやはり《英語読み》でしょう」
パディーム 「英語?」
Chun  「そう、アメリカ発祥のゲームだから、日本語である単語を英語読みするプレイヤーが多くいます。
例えば、手札をハンド、カードを引くをドロー、と言い換えるようにです」

英語に言い換えられやすい単語って?
手札      ⇒  ハンド
カードを引く  ⇒  ドロー
打ち消す    ⇒  カウンター
スルー     ⇒  呪文のスタックに対して優先権を放棄、攻撃クリーチャーをブロックしない
ディスカード  ⇒  カードを手札から捨てる
戦闘フェイズ  ⇒  コンバット
終了フェイズ  ⇒  エンド

などなど

パディーム 「あのハイエナ、ドロソと言っていたような」
Chun  「ドローソースですね。
ソースも源や元という英語がからきている単語で、ドローの源、つまりカードを引く効果を持つ呪文や能力をさします」

英語が元となっている現象って?
ドロソ     ⇒  カードを引く呪文や能力(ドローソース)
バットリ    ⇒  戦闘において対戦相手の裏をかく呪文や能力(コンバットトリック)
ハンデス    ⇒  手札を捨てさせる呪文や能力(ハンドデストラクション)
フルタップ   ⇒  土地もしくは攻撃クリーチャーをすべてタップ状態にする

などなど

パディーム 「一気に難しくなりました」
Chun  「しかし試合中によく聞く略語ではあります。
マジックは会話のゲームなので、省略して言葉のキャッチボールの間隔を短くする効果があるのかもしれませんね」
パディーム 「ただ、この辺りは英語を理解していればなんとかなりそうですね」
Chun  「お次は有名なカードや、別のカードゲームが語源となった用語です。
感覚で理解できるものが多いですが、知らないと置いていかれる可能性があるのも事実です」
パディーム 「恐ろしくなってきました」
Chun  「まぁ定着している、ということはわかりやすいものが多いんですけどね。
例えばクリーチャーやプレイヤーにダメージを与えるものを火力、そしてダメージを与える行為を焼く、と言い換えることが多いです。
これは《稲妻》を始めとする赤のダメージ呪文のイメージによるところが大きいですね」

他のカードやゲームが元になっている単語って?
火力、焼く   ⇒  クリーチャーやプレイヤーにダメージを与える
ジャイグロ   ⇒  クリーチャーのパワー、タフネスにプラス修正を与える
山札、デッキ  ⇒  ライブラリー

などなど

Chun  「他には行動やカードのイメージがそのまま使われるケースもあります。
タップすることを寝かす、なんてわかりやすいでしょう?」

その他、習慣になっているものって?
寝かす     ⇒  タップする
割る      ⇒  (土地、アーティファクト、エンチャントに対して)破壊する
削る      ⇒  ライブラリーのカードを墓地に置く
奥義      ⇒  プレインズウォーカーの大マイナス能力

などなど

パディーム 「これでばマジックリーグの再戦は上手くできそうです」
Chun  「ちなみに、これらはマジックリーグに限定した一例に過ぎません。
むしろまだ言いそびれていることもありそうで不安になってきました」
パディーム 「これだけ覚えてもまだまだあるとは……
驚きました。
そしてまだまだ覚えて楽しむ余地があるということなのですね」
Chun  「ええ、マジックリーグを通じて得たカードを元に、ブロック構築やスタンダードに広げるもよし。
ドラフトやシールドを行い、さらにリミテッドに力を入れるもよし。
新しい楽しみを見つけてください」

⇒ ⇒ ⇒

「お世話になりました」
パディームは深く頭を下げました。
――もっと早くから、部下たちに教えを請えば良かった。
帰ることができればマジックリーグについて色々聞いてみましょう。
長く教える立場にあった彼女は新鮮な気持ちで講義を吸収しました。
後はカラデシュに帰るだけですが……
「さて、車に轢かれたときはどのような状態だったか覚えてますか?」
校門までやってきた二人。
「そうですね、あのときは頭巾を片手に領事府を飛び出して。
ちょうどこのように」
「わわわ、再現だからって道路に飛び出したりしちゃあ……
って、あぶなーい!!」
その時、どこからともなく現れた《かぼちゃの馬車》がパディームを撥ねました。
「ぎゃー、パディームさーん!!」
しかしChunが見渡しても馬車以外何も見当たりません。
「まさかさっきまでのは幽霊?
ひぃぃ!!」
戦慄するChunをおいて、かぼちゃの馬車からそれはそれは美しい女性が従者に手を引かれ降り立ちました。

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「私はシンデパラ。
ダンスパーティー会場はこちらかしら?」
「我が校にはプロム制度も社交ダンス部もありません」

fin

「そう、困りましたわ。
フェアリー・ルーンマザーの魔法が消える《ターン終了時まで》に王子なる人物がいるパーティーに参加しなければならないのに」
「あの、オチを引っ張るのやめていただけませんか?」

chun

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